孤高の凡人

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On the Road

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北風と太陽

感動した記事を勝手にトリビュートします。
今回の記事はこちら。

coden.hatenablog.com

tribute to こでん氏

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写真提供 https://www.facebook.com/takuya.tomiyoshi

 

 
「大陽、今頃服脱がせてんのかなぁ」

木田 風介は、そう呟きながら目の前のカフェラテを冷まそうとふうぅーっと息を吹きかけた。

カフェラテを飲むと昔を思い出す。
「木田さん、ふうふうし過ぎっス、めっちゃ泡飛んでます。」
 
山岡 大陽は会社の営業部の後輩である。木田は入社したての山岡の担当として、介護用品の営業に連れていき、先輩風を吹かせていた。仕事が終わると本当は行きたくない山岡をファミレスに連れてきて『教育』という名の愚痴を聞かせた。ドリンクバー1杯で。
山岡はEXILEにいてもおかしくないぐらいのイケメンで、もともとサッカーをしていたらしく、短髪が良く似合う、さわやかな青年であった。
一方、木田は顔が布袋寅泰に似ているという理由から高校の時に軽音部に無理やり入部させられ、『BOOWY』のコピーバンドを当て振りでさせられ、その青春をまんざらでもない顔面で過ごした。
仕事においても二人には圧倒的な初期スペックの違いがあった。山岡は木田が足の指の爪が割れる程背伸びして『頼れる先輩』というキャラを一生懸命演じているのを愛おしく思い、自らの能力を毎朝布団の上に置き忘れた事にして、『頼れる先輩』を立てた。
営業部には彼等を除いては50代のおっさんしかおらず、木田にとって山岡はかわいいかわいい目に入れても痛くない後輩であり、山岡にとって木田は、ランチ代のATMとつまらない社内での良い暇つぶしであり、二人の需要と供給は成り立っていた。
 
地方から出てきた木田には友達がおらず、彼はプライベートでも山岡を自分の行きたい場所へ連れ回した。
ボーリング、クラブ、居酒屋、ガルニ、パチンコ、ガルニ、スロット、ガールズバー、海、ダーツバー、パチンコ、ガルニへと連れ回した。
 
木田に連れ回されながらも、見事なスケジュール管理能力でプライベートを楽しんでいた山岡は会社に入って6年が経った30歳の時に結婚をした。新婦の誕生日に合わせて行われた結婚式、その二次会で木田は酒に飲まれて、新婦にサプライズで出されたバースデーケーキのロウソクの火をふうぅーっと豪快に吹き消し、非難を浴びた。
 
木田は24歳の時に出会い系サイト経由で付き合った彼女と3回目のデートでカラオケへ行った、そして今日はバリバリに追い風が吹いていると勘違いし、デンモクで『はじめてのチュウ』をチョイス。これを熱唱しながら彼女にキスを迫り、そのとらふぐのような顔面から放たれる鼻息、セブンスターの臭いに萎えた彼女の服を一度も脱がせる事なく、別れを告げられた。
それ以来木田には彼女がいなかった。
 
木田は彼女が欲しいが為に、山岡が結婚してからも、彼を合コン、街コン、相席屋などに連れて行った。山岡を連れて行く事で、寄ってくる女性の顔面偏差値が上がるので、彼は山岡をiPhoneのストラップにしたいと思ったこともあった。山岡も女性との遊びを嫌いではないので、妻に残業と伝えこれに付き合っていた。
 
そして二人は今日も相席屋へと出かけて行った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ブッブッブッブップシューゾボボボ。
ガランとしたファミレスのドリンクバーに木田はいた。
カフェラテを持って席に戻った木田はそれを一口飲んで「あつっ」と誰かに聞いてほしい音量で言った。店内には安っぽいクラシックが流れ、木田の声はピアノのファの音に混じって消えた。
 
「太陽、今頃服脱がせてんのかなぁ」
木田はそう呟きながら目の前のカフェラテを冷まそうとふうぅーっと息を吹きかけた。
そして飛び散った泡の隙間から覗いた黒を、チュウと吸った。
 
眠れない夜を、さっき別れたばかりの君のせいにして。
 
 
 
参考図書
きたかぜとたいよう (イソップえほん5)

きたかぜとたいよう (イソップえほん5)

 

 

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