孤高の凡人

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On the Road

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嫁に熱中症

連日続く猛暑、蝉の鳴き声に重なるように別の蝉が鳴き、それが湿度と合わさってポリリズム。私は屋上の折半屋根上で、高反射、高遮熱の塗料による照り返しを浴び続け、ヘモグロビンが沸騰して頭が割れた。

蝉のセッションに社用車のアイドリングで参加し、クーラーをミンミンに効かせ後部座席で一斗缶に挟まれながら、養生していたのだけれど、頭のミンミンは少しも良くならない、良くならないどころか、まるでディストーションのエフェクターを踏んだように、更に激しさを増していった。

熱中症であった。

朦朧とした意識が高速道路のスピードについて来れずに後ろへ吹っ飛びそうになるのを、安全帯で繋ぎ、時折、意識ヨシ!と指差呼称する事で自身の頭に繫ぎとめながら、私は帰路に着いた。

家に着くと、案の定誰もおらず、私はううううううううと唸りながら、冷蔵庫に常備しているグリーンダカラを一気に飲み干して、冷蔵庫の前で、全ての関節を曲げ、うずくまった。

大量の塩分が必要であった。そして、もし私がナメクジであったならば、今この体に塩分を摂取することは、人間である場合の背中に蝋を垂らしたり、鞭で叩いたりする事と相違なく、ナメクジのようにフローリングを移動する私に塩分をとらせることは、凄くSM的で興奮した。

そのぐらい頭はおかしくなっていた。

煎餅布団に到着した私は胎児のようなスタイルでねんねをキメた。

目を覚ました頃には朝になっていて、僅かな頭痛と吐き気が残っており、まともに仕事に行ける状態ではなかったので、溜まった『代休』というカードを使い、再び煎餅布団にうずくまる。

すでに嫁と娘の姿はなく、あるのは和室の隅から熱くも冷たくもない視線を送る、常温の経口補水液。嫁が用意したもので間違いないだろう。

我々夫婦は仲が良いと言われる事が多く、夫婦円満の秘訣を聞かれる事がたまにあるが、それはおそらく、互いに自身の理想を突きつけるような過剰な『要求』をしないからであり、互いの『自由』 を干渉せずに共存していることが最たる理由と思われる。

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枕元にそっと置かれた、経口補水液。

その命を繋ぎ止めるにはあまりにもギリギリな『優しさ』をジャズマンのように口に咥え、ブルーノートのスケールを吹く。

過去、互いに熱中症だった若かりし頃のスリムな嫁を思い出しながら。

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