孤高の凡人

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On the Road

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キラーフィッシュ

感動した記事を勝手にトリビュートします。
今回の記事はこちら。

g913.hatenablog.com

tribute to ジロギン氏

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写真提供 https://www.facebook.com/takuya.tomiyoshi

 

「いやぁ、お兄さん、面白いですねぇ、私も一つお話ししてもいいですか?」

栃木県へ出張へ来た私は、現地の下請け業者の方に「この後一緒に飯でもどうですか」と誘われて、べちゃべちゃのお好み焼きを一緒に食べた。
ビール二杯で気分がハイになった彼は断る私の腕を強引に引張り、行きつけのスナックへ連れて行った。

私はチークの位置を完全に間違えてアンパンマンのような顔面になっているギャルに飲めない酒を注がれた。愛と勇気でさえもLINEでブロックするであろうその顔面を、視界に入れないように酒を飲み干した。
目の前がぐるぐるまわり、酒が飲めない私は心配するふりをするアンパンマンを振り払い、トイレで吐いた。
もともとゲロみたいだったお好み焼きは、渦を巻きながらどこかへ消えた。
下請業者の彼と、アンパンマンに見送られ、もう二度と来まいと心に誓いながら私はタクシーに乗った。

 

吐いて少し気分が落ち着いたのか、私はタクシーの運転手に『ウォッシュレットでケツの穴が崩壊した話』を雄弁に語った。普段ならそんな話をすることはないが、これが酔うということなのだろうか。

「いやぁ、お兄さん、面白いですねぇ、私も一つお話ししてもいいですか?」

私の話をクスクス笑いながら聞いてくれていたタクシーの運転手が話だした。

「お兄さん、例えばね、明日死ぬとしたらどうします?」

私はこうするという想像ができず、最後ぐらい自分のやりたいことをやるだろうと答えた。

「大体の人はね、そうするんですよ。」

運転手は笑いながらそう言った。

小馬鹿にされたようで少しムッとした私は、それまで見ていたバックミラー越しの運転手から目を外し、なんとなくメーターを見た。
その横には運転手の『横島 正』と書かれた名札と顔写真がこちらを見つめていた。
悪か正義かよく分からないその名前と、幸せそうな笑顔の写真が印象的だった。

「私ね、この仕事をする前は人を殺す仕事をしていたんです。」

突然何を言い出すのかと思ったが、まあ面白い言い回しで話をしているだけだろうと思い、『死刑執行人』とかそういう職業ですかと聞いたが、運転手は静かに首を横に振って話始めた。

 

 

 

 

横島正は暗殺業を営む人間のように依頼主がいるわけではなく、月に5人程度無差別に人を殺すという仕事をしていた。
その対象はタウンページから適当に選ばれ、過去542人の人が朝、突然枕元に立つ横島に「今から24時間後にお前の頭をこの銃で撃ち抜く、痛みを感じないように眉間を1発で撃ち抜いてやる。外れることは絶対にないし、お前が生き延びることも絶対にない。」と言われ、最後の1日を自分本位に過ごして死んだ。

しかし、一人だけ殺さなかった男がいた。
その男は、自分を殺すと宣言する横島に対して友人のように接した。
その男は横島とご飯を共有し、一緒に昼寝をした。
横島にはこのような人間に出会ったことは過去にたった一度もなかった。
自身の仕事を冷たい鉄のように無感情でこなしていた横島は、その男と話すうちに自分が家族に嘘をついて『良い旦那』を演じていることに罪悪感を抱いているということに気がついてしまった。
そして自分は心から『良い旦那』になりたかったのだという答えにたどり着いた。
横島はこの男を殺せなかった。
それは同時にこの仕事の廃業を意味した。
 
 
 
 
 
 
「お客さん、この話嘘だと思ってるでしょ、実はねぇ、私の創作なんです!」
バックミラーごしの運転手は幸せそうに笑いながらそう言ってメーターを止めた。

同時に私の携帯が鳴った。
その電話は娘からで私は「今ホテルに着いたよ、また後で電話するね」と答え、電話を切った。
「お子さんですか?」
私は「はい」と答え、代金を財布から出そうとしていると、運転手はポケットからスマホを出し、親指と人差し指を使い慣れない手つきで写真を拡大して私に見せた。
「私もね、先日10歳になった娘がいるんですよ。」
部屋で運転手とその娘であろう女の子が笑っている写真であった。
 
女の子の向こうに見える水槽の中に体長50cmはあろう金魚が写っていた。
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