孤高の凡人

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On the Road

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罪と罰

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写真提供 https://www.facebook.com/takuya.tomiyoshi

 

私は建設業で働いている。
昔は小学生のなりたい職業ランキングの上位にランクインしていた『大工』も今では『ユーチューバー』にその座を奪われノーフューチャー。そんな業界で10年も働いている。

仕方がないのだ。罰を受けているのだ。
道を尋ねてきた外国人に、洋楽でつちかった流暢な英語で「ゴーストレート、フォーエバー」と真逆の方向を教えたり、自動車レースの対戦ゲームでゴール寸前の友達に青い陸亀の甲羅を投げてそれを妨害したりと、さまざまな業を重ねてきた。

神はそれらの罪を許してはくれないだろう。
そしてこのスカイツリーより高く積み上がった業を刈り取るのにおそらく私はこの短い生涯の全てを捧げる事になると思う。
覚悟の上である。
 
上記の理由で、私は建設業という下の下の業界で消耗し、ゲノゲの鬼太郎として生きている。
今日も塗る、壁を。
 
本日は一軒家の工事を行っていた。
作業員が汗を流して働いている中、私はスタバの『キャラメルフラペチーノ』を片手にこれを見ていた。決してサボっているわけではない。監視しているのだ。監督だから。
昼頃になると作業員たちはゾロリゾロリと怪傑のように足場から降りてきて、「へぇ、飯にさせてもらいまっ」そう言ってみんなでコンビニへ向かう、ゾロリゾロリと怪傑のように。
可哀想な子羊たち、酒、ギャンブルに溺れ、嫁からまともな食事を与えられず、日々そのような添加物を体内に摂取しているというのですね。悔い改めよ。
私は愛する嫁の愛する嫁による愛する俺の為の愛妻弁当を食べるわよん。と、スキップで車に戻り、弁当を開けた。
おっほう、卵焼き、ハンバーグ、唐揚げ、私の大好きなものばかりではないか。
帰ったら愛する嫁に何か欲しいものはあるかい?と聞いて差し上げたろかい。と嘯いてこれらを食そうとした。
 
が、しかし箸がない。
 
やりやがったな。嫁め。今頃私がダックスフンドのようにハンバーグを食っている姿を想像してケラケラ笑っているに違いない。
私は憤怒した。
車内に割り箸がなかったか探したが、私は無駄なものは所持しないミニマリストであるため、棒状のものは何もなかった。
ワイパーを外して使用しようと思ったが、関西で3番目ぐらい手先が器用な私でもワイパーで飯を食うことは困難だと楽勝で想像できたのでこれを中止した。
食べたいよう。ハンバーグ食べたいよう。唐揚げ食べたいよう。卵焼き食べたいよう。
飢えた私の目はだんだんと菩薩のように虚ろになった。

私が遠くを見つめていると、その虚ろな目の先に光が差した。
緑の女神が私に向かって微笑んでいる。
キャラメルフラペチーノ。私はそう呟いた。
そうか、ストロー、ストローだ、ストローがあるぞっ!
目に輝きを取り戻した私はストローを使用して弁当を食べることにした。
 
卵焼きを突き刺し、ストロー内に入った少量の卵焼きを吸引。
ハンバーグを突き刺し、ストロー内に入った少量のハンバーグを吸引。
唐揚げを突き刺し、ストロー内に入った少量の唐揚げを吸引。
 
私の吸引力はダイソンのソレを遥かに凌駕した。
 
食べ方に少々問題はあったけれど、美味しい愛妻弁当に満足した。
きっとお箸を入れ忘れただけなんだ。そう自分に言い聞かせて、仕事へ戻った。
 
午後から可哀想な子羊たちに一頻り作業をさせた後、定刻になり私は感謝の気持ちを込めて嫁に何か買ってやろうかなと考えながら帰路へついた。

家に帰ると嫁の姿はなく、「お疲れさま、ママ友の家でご飯食べてきます。冷蔵庫にあるご飯チンして食べてね。P.S 掃除機が調子悪いので、明日見に連れて行って。」
というメモと、ダイソンのパンフレットが置いてあった。
 
 
私はこのメモとパンフレットを吸引した。
憤怒しながら、ダックスフンドのような顔で。

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