孤高の凡人

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On the Road

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便座とワイシャツと私

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私は今、某材料メーカーの総会に出席し、ひょっとこのような顔面のオッサンのつまらない話を聞いている。

窓の外は雨、私はその雨を見ながら自身から発せられたシトラスの香りをスンと嗅いだ。

私は建設業で働いている。

建設業といえば、お祭りや花火大会などでファッションセンターしまむらで購入した浴衣、作務衣を着こなして、道行く若者を鷹の目のミホークし、俺がいっちゃんつおい!と威嚇してトラブルをメイキングするような下の下、ゲェ、ゲェ、ゲノゲノゲェと、キティちゃんのサンダルで闊歩するような人間が多く、誠に悲しい。

しかしそんな私も下の下、ゲノゲの鬼太郎として、髪の毛をピンと洗濯のりで固め、日々を、このドドメ色に染まりたる日々を、だらだらと過ごしているのだ。

本日は弊社が代理店として施工している、材料メーカーの総会に出席するので、少し早起きして、スーツに着替え、髪にポマードを撫でつけた。

建設業ではなかなかスーツを着る機会はない、年に10回程度ではないだろうか。そんな慣れないスーツを着こなして、私は総会へと出掛けた。

 

車で約一時間半の道中、私は渋滞に巻き込まれた。カーナビゲーションシステムはその仕事を放棄し、一点をぴこぴんしたまま動かず、そのぴこぴんが私の目から侵入、海馬あたりでホムンクルスと出会い、「なあ、俺たちバンドやらない?」と意気投合、機材を積んだワゴン車に乗り、私の腹部まで遠征し、ステージでジャズセッションを始めた。

その軽快な4ビートのスウィングは私の大腸を刺激して、静かに眠っているボーカリストを叩き起こした。

まずい、ここで目覚めてはならぬ。

私は時速5キロ程度で徐行しながら、すでに一曲目が始まっているステージ、腹部を押さえてサービスエリアの看板を探した。

幸いな事に看板はすぐに見つかった。

PAまで3キロ、観客を煽り徐々に盛り上がりをみせるホムンピコピンズ。私は全ての神経を尻の穴に集中させ、PAを目指した。

車から降りた時には、オーディエンスは踊り狂い、グルーヴは最高潮に達していた。

私はひょっとこのような表情で尻の穴を押さえながら、トイレを目指した。

 

洋式のトイレに飛び込んで、ベルトを外す、スーツのズボンを下げ、便座に座るやいなや、マイルスデイビスのトランペットのような音と共に、そのボーカリストがステージから飛び出した。

間に合った、ギリギリセーフである。

ブログを書き始めてから何度も何度も私はうんこを漏らしてきた。それを赤裸々に綴る私を、人々は『脱糞土方』と呼んだが、もう大丈夫。

私は間に合ったのだ。

しかし、おかしいことがある。

通常、脱糞をした場合、ぽとぅーん、或いは、トポンヌ、という音が聞こえるはずである。

それがまるで聞こえないのだ。

不思議に思った私は股の隙間から便座の中を覗き込んだ。

 

そこにはスーツのYシャツの裾、その上でハンモッグのようにゆらゆらとリラックスしたバーバママが、「やあ!」と顔を出していた。

 

私は「やあ。」と返事をして、バーバママを静かに水の中へと落とした。

 

しかしこのまま総会へ出席するのは、社会的にまずい。

シャツにバーバママの『バーバ』の部分が残り、香ばしい香りを放っているからだ。

これをなんとかせねばならぬ。

私は残りのメンバーにさよならしながら、辺りを見渡した。

なんとかこの『バーバ』の香りを消さねばならない。

そして私の目に飛び込んできた天使、名前からして力を持っていることが明白である『消臭リキ』。

よかった。実によかった。神はいた。これで私は救われる。

私は消臭リキのキャップを外し、中の液体を手に出して、シャツ、パンツ、尻に擦り付けた。

 

ご機嫌で残りのハイウェイをぶっ飛ばして会場へ到着した私は、メーカーの人に案内され席に着いた。

席に座ると、前後左右の人がこちらを見て、何かコソコソとお話をしている。

私から発せられる、そのシトラスの香りが原因であろう。

しかし私は社会人、例え今後、陰で『シトラス監督』と呼ばれようとも、『バーバ』の香りで迷惑を掛けるよりは遥かにマシなのである。

 

隣の席の人が窓を少し開けた。

 

雨が降っていた。

シトシトと雨が降っていた。

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